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心臓MRI検査

MRIとは、簡単に言うと磁石と電波を使って身体の中の水や脂肪にたくさんある水素の原子核の状態を絵にする方法です。

MRIでは、まず地球の磁気の数万倍の強さをもつ磁石を装備し、均一な磁場を作り出す筒状の装置が必要です(図20A)。この均一な効力磁場を作り出すことに非常に高い技術が必要で、それがMRI装置が高額であることの原因です。

また、身体から発生するラジオ波の信号を受信するために、それぞれの身体の部位に応じた受信コイルが必要です。心臓の場合には心臓専用受信コイルになります(図20B)。均一な磁場を持つ磁石の筒の中に体を入れ、短時間の間にラジオ波を照射し、ラジオ波を止めたときに身体から出てくるラジオ波を受信して画像を作り出しています(図20C)。

さらに細かく見ると、身体の中にある水素原子核の「スピン(回転)」の様子を画像化していることになります(図20D)。まず、水素原子核を、強力な磁場の中で一定方向に行儀よく揃えます。次にラジオの周波数帯の弱い電波を照射して、体のある断面の中に含まれる水素の原子核に電波のエネルギーを吸収させます。そして電波の照射を止めると、吸収されたエネルギーは放出されて元に戻り、そのときに得られるラジオ波の信号をコンピュータで画像化します。

なおMRIでは電波を当てるたびに機械の振動音が発生し、それがかなりうるさい場合もあります。これがMRI検査で聞こえる大きな音の原因です。大きな利点として、MRI検査は放射線を使わないので、「被曝」の心配は全くありません。

図20.心臓MRIの原理

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また、心臓MRIでは放射線被曝なく、造影剤を使用することなく、冠動脈を描出することが可能です。同時に心臓のポンプ機能(心機能)評価も可能であり、心臓MRIでの心機能評価は、最も信頼性が高いと考えられており、様々な心機能に関する臨床研究でも採用されています。また、造影剤を用いた造影心臓MRI検査は、心エコー、心筋シンチ、冠動脈造影などの従来の心臓画像診断から別々に得ていた情報を、約1時間で全て得ることができるという高いポテンシャルを持っています。そのため、海外では「総合店舗(One-stop shop)」と呼ばれています。

1.心臓MRI検査

心臓MRI学会で推奨されている心臓MRIフルスタディ検査は、造影検査を主体として、

①シネMRI検査(壁運動評価)→ ②T2強調画像撮影(心筋浮腫評価)→ ③冠動脈MRA(Whole heart coronary MRA)撮影(冠動脈評価)→ ④パフュージョン撮影(負荷/安静:虚血評価)→ ⑤遅延造影検査(残存心筋の評価=心筋バイアビリティ評価)を40~50分で実施されている場合が多いです(図21)。

①→②→③の過程は完全な非造影検査となっているため、比較的低リスクの患者でも実施可能です。実際に我々の施設では、無症状のことが多い心臓ドックにて活用しています。高い組織コントラスト(脂肪、筋肉、水の区別が容易です)で撮影される心機能の画像は、より正確な壁運動評価、心臓のサイズ評価、心肥大の評価などに非常に有用です。

造影MRIによる負荷心筋血流検査は、高い分解能での検査が可能であり、いくつもの血管が細い多枝病変、右冠動脈領域、左回旋枝領域といった心筋シンチ検査では感度低下が問題となる部位での正確な診断に有用です。

図21.心臓MRI検査プロトコール

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2.冠動脈MRA検査

冠動脈MRAでは造影剤を使用しなくても血液を白く光らせ、冠動脈を明瞭に描出することが可能です(図22)。

心臓CTで問題となる、造影剤と放射線被曝という二つの問題を同時に解決できる画期的な撮影方法です。冠動脈MRAでは、心臓CT検査のような呼吸停止が不要で、通常呼吸の状態で、横隔膜同期、心電図同期を併用して行います。その為、呼吸停止の困難な方や耳の不自由な方にとっても比較的容易に実施できるのが特徴です。また、CTよりも低侵襲である以外に、MRIはその原理的な特徴から冠動脈石灰化による影響を全く受けずに血液を白く描出することが出来ます。冠動脈石灰化は、前述のように石灰化スコアとして使用されるという利点とは別に、あまりに高度に進行すると、CTによる正確な冠動脈疾患の診断を妨げるという欠点でもあります。

このように、優れた点ばかりではなく、CTに比べると分解能が低く、診断確定には心臓CTもしくは心臓カテーテル検査が必要になる場合が多いです。撮影にもCTよりも高い技術が必要になります。

冠動脈MRAの撮影技術は、2003年に開発された比較的新しいMRI撮影技術であり、世界的に見ても実施できる医療機関はまだまだ限られています。冠動脈MRA撮影技術が日本人の体格に向いている事もあり、日本は世界的に見ても冠動脈MRAの技術が進んでいる国の一つといえます。

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3.遅延造影MRI検査

MRI用のガドリニウム造影剤を用いると心臓の筋肉である心筋の様子を詳細に観察することが可能です。

心臓MRI撮影技術の中で重要なものに、遅延造影MRIと呼ばれる技術があります。心筋梗塞や心筋症などで心筋が傷害を受けると、その部位の心筋細胞が壊れて、ガドリニウム造影剤が通常は染み込んで行かないはずの心筋に染み込んで行きます。この心筋内に染み込んでいった造影剤を、特殊な撮影技術を用いて、白く光らせて撮影し、心筋梗塞の起こった部位を鮮明に、高い分解能で撮影することが可能です(図23)。これにより心筋傷害のサイズ、重症度を正確に判定できます。遅延造影が心臓の筋肉のどれぐらい深くまで及んでいるのかで心筋の生存性(バイアビリティ)の指標としても利用され、冠動脈血行再建術による心機能回復、患者予後とも関連していると報告されています。

図23.遅延造影MRIによる心筋バイアビリティ

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4.負荷心筋血流MRI検査

図24.薬物負荷心筋血流MRI

薬物負荷心筋シンチ検査と非常に良く似た検査です。

アデノシン(実際にはATP)という心筋血流を増加させる薬剤を用いて心筋の血流を増加させ、その時に十分な血流増加が得られるのかをMRIにて検査する方法です。

冠動脈が細くなっている場合や、心筋の傷害(傷み)があり、心筋血流が十分に増加しない場合には異常として検出できます。

心筋シンチに比較して、高分解能での検査が可能です(図24)。

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